日本国際ポスター美術館:メールマガジン 5月号
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メールマガジンの2本目です。
後からメールを見返すと頑張りすぎて文章が長い。「こんなすてきなポスターがある」という紹介でみなさんの気持ちをちょっと振り向かせる感じの目的なので、極端に言えば文章などなくてもよいのですが、少し解説があると、鑑賞の解像度が上がりますよね。という文章を次からは書こうと思いました。


*画像提供:日本国際ポスター美術館
*Image courtesy: Ogaki Poster Museum, Japan
「DAWNO TEMU W AMERYCE(ワンスアポンアタイムインアメリカ)」(1986,98x68cm)
ヤン・ムウォドジェニェツ Jan Młodożeniec(1929-2000)
「ワンスアポンアタイムインアメリカ(‘84米)」アメリカの映画のポスター。内容はギャングにまつわる裏社会での友情と恋の話。
ヤン・ムウォドジェニェツのポスターは、他のポーランドの作家のポスターと比べると、明らかに色や線が「かわいい」印象なので、初めて見た時から目を引き、どのポスターもずっと好きだった。ポーランドではどの街にも広告塔があって、かつてはその街のデザイナーのポスターが街を彩っていた。彼の絵本のようなかわいい絵柄は、ワルシャワの街で子どもたちにもさぞかし人気だったことだろう。
彼のポスターの一番の特徴は、筆に絵の具をたっぷり含ませたような太い線の輪郭と、明るい鮮やかな色面である。そして、よく見ると文字も手書きでレタリングされており、絵の部分ととても馴染んでいる。
「手描き」には「偶然性」が含まれる。筆に含んだたっぷりの潤いが、対照的にワルシャワのちょっと乾いた空気を感じさせ、自由でいきいきとした線が、それを描いたデザイナーの存在を強く感じさせる。だからこそ、より「その人」の考えや表現、主張が大切となる。ポスターの伝えたい内容を解釈して抽象化、単純化させる過程やその背景に、隠されたものを想像させ、見る人はわくわくする。
このポスターが制作されたのは1986年、ポーランドがそろそろ社会主義を脱しようとしていた頃である。彼が「荒廃した都市の中で、ワルシャワ市民の心を明るくするために、意識して明るい色を使うことを心掛けた」と語った(注1)ように、ポーランドのポスターには社会情勢が色濃く反映しており、作家の独自性とセットで見ることとなる。
ポーランドとアメリカと舞台は違うが、暗い社会を描いたこの映画のポスターは、だいたい背景が闇となっているが、彼のポスターは白である。拳銃やお金、お酒を示すイラストレーションはポップな感じだが、その中で暗さを感じるのは主人公の顔に重なっているグレーのザラザラした色の面の部分だけである。
彼に限らずポーランドにおける映画のポスターは独自の絵柄となっていることが多い。映画の配給会社が国営だったので「宣伝効果」を求められていなかったこともあるし、あらゆる印刷物は検閲されていた時代だったので、表現を抑制されていたからその反発で、隠喩によってその腕前を発揮できることがデザイナーの喜びだったのだと推察される。
私も型にはまっていない自由なポスターが大好きだ。
注1:「Polish Poster ‘50-’60 ポーランドポスター展[図録]」(2012)p.20より引用

企画/山田信子(日本国際ポスター美術館ディレクター)
テキスト・ポーランド広告塔百景/宮川友子(グラフィックデザイナー、大垣女子短期大学講師)
*メールマガジンご希望の方は下記アドレスまで「メールマガジン希望」とご連絡ください。
poster.ogaki2022@gmail.com
後からメールを見返すと頑張りすぎて文章が長い。「こんなすてきなポスターがある」という紹介でみなさんの気持ちをちょっと振り向かせる感じの目的なので、極端に言えば文章などなくてもよいのですが、少し解説があると、鑑賞の解像度が上がりますよね。という文章を次からは書こうと思いました。


*画像提供:日本国際ポスター美術館
*Image courtesy: Ogaki Poster Museum, Japan
「DAWNO TEMU W AMERYCE(ワンスアポンアタイムインアメリカ)」(1986,98x68cm)
ヤン・ムウォドジェニェツ Jan Młodożeniec(1929-2000)
「ワンスアポンアタイムインアメリカ(‘84米)」アメリカの映画のポスター。内容はギャングにまつわる裏社会での友情と恋の話。
ヤン・ムウォドジェニェツのポスターは、他のポーランドの作家のポスターと比べると、明らかに色や線が「かわいい」印象なので、初めて見た時から目を引き、どのポスターもずっと好きだった。ポーランドではどの街にも広告塔があって、かつてはその街のデザイナーのポスターが街を彩っていた。彼の絵本のようなかわいい絵柄は、ワルシャワの街で子どもたちにもさぞかし人気だったことだろう。
彼のポスターの一番の特徴は、筆に絵の具をたっぷり含ませたような太い線の輪郭と、明るい鮮やかな色面である。そして、よく見ると文字も手書きでレタリングされており、絵の部分ととても馴染んでいる。
「手描き」には「偶然性」が含まれる。筆に含んだたっぷりの潤いが、対照的にワルシャワのちょっと乾いた空気を感じさせ、自由でいきいきとした線が、それを描いたデザイナーの存在を強く感じさせる。だからこそ、より「その人」の考えや表現、主張が大切となる。ポスターの伝えたい内容を解釈して抽象化、単純化させる過程やその背景に、隠されたものを想像させ、見る人はわくわくする。
このポスターが制作されたのは1986年、ポーランドがそろそろ社会主義を脱しようとしていた頃である。彼が「荒廃した都市の中で、ワルシャワ市民の心を明るくするために、意識して明るい色を使うことを心掛けた」と語った(注1)ように、ポーランドのポスターには社会情勢が色濃く反映しており、作家の独自性とセットで見ることとなる。
ポーランドとアメリカと舞台は違うが、暗い社会を描いたこの映画のポスターは、だいたい背景が闇となっているが、彼のポスターは白である。拳銃やお金、お酒を示すイラストレーションはポップな感じだが、その中で暗さを感じるのは主人公の顔に重なっているグレーのザラザラした色の面の部分だけである。
彼に限らずポーランドにおける映画のポスターは独自の絵柄となっていることが多い。映画の配給会社が国営だったので「宣伝効果」を求められていなかったこともあるし、あらゆる印刷物は検閲されていた時代だったので、表現を抑制されていたからその反発で、隠喩によってその腕前を発揮できることがデザイナーの喜びだったのだと推察される。
私も型にはまっていない自由なポスターが大好きだ。
注1:「Polish Poster ‘50-’60 ポーランドポスター展[図録]」(2012)p.20より引用

企画/山田信子(日本国際ポスター美術館ディレクター)
テキスト・ポーランド広告塔百景/宮川友子(グラフィックデザイナー、大垣女子短期大学講師)
*メールマガジンご希望の方は下記アドレスまで「メールマガジン希望」とご連絡ください。
poster.ogaki2022@gmail.com
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